お見合い相手は、アノ声を知る人
夢中だったからそんな時もあったかもしれない。
彼との時間は、ほぼそれだけの様な時もあったし。


(ヤダ。そしたら結構な回数を聞かれてたってこと?)


ヤダヤダ…と恥ずかしくなりながらバシャバシャとシャワーを浴びる。

忘れようと乱暴に髪を扱い、ざっと洗って水を止めた。

両手で髪の水気を絞り落としてタオルを巻く。
浴室から出ると洗面所の鏡に映った自分の姿が見えていた。


大きくはないけど胸の形がいいと褒められたことがある。
鎖骨がくっきりと見えて綺麗だね…と噛み付きながら跡を付けられたこともーー。


きゅん…と胸が狭まりながらバスタオルで体を拭く。
体に残された記憶は薄らいでも、あの頃の情熱は忘れられない。


一生で一度だけの恋でもいいと思ってた。
それくらい、彼のことが大好きだったーーー。


ドライヤーで髪を半分程度乾かしてリビングへ行くと、祖父がケータイ片手に話し中。

はい、はい…とやたら固そうな返事をして、誰と話し込んでるんだろうと窺った。


< 23 / 213 >

この作品をシェア

pagetop