お見合い相手は、アノ声を知る人
「………」


何なんだ…と嫌になりつつお尻を付けると、待ち構えてたマルコが膝の上に乗ってくる。

ゴロゴロと喉を鳴らして甘える背中を撫でてやりながら向かい側に座った祖父の顔を睨んだ。


「先方は焦らないと仰っておった。明里にはその気がないことは一路君からも聞いとるそうだし、その方が落とし甲斐があると彼が言っておったそうだぞ。

今時にしては珍しく男気のある人じゃないか。あんな人と結婚したら明里は間違いなく幸せになれると思うがな」


断る気ゼロだなと判断しながらそれでも絶対にヤダと言いたくなる。
祖父がどんなに勧めても彼は私のアノ声を聞いてるんだ……。


「お祖父ちゃんがどんなに勧めても私の気持ちは変わらないから。
二度と彼には会わないし、焦らないと言われても迷惑なだけ。
……だから断って。それと今日、彼から三千円ほど借りてるからお祖父ちゃんから返しておいて」


やむにやまれず借りたタクシー代。
絶対にお祖父ちゃんに支払わせてやろう。

 
言うだけ言うとマルコを抱き上げてソファから立ち上がった。
部屋に行こうと歩き出したら、背中から祖父が「明里」…と呼んだ。





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