お見合い相手は、アノ声を知る人
「いいお話じゃないの」


祖父からお見合いの話を聞かされた母は、夕飯を食べながらそう言った。


「小早川さんなら身元も確かだし安心だわ」


ねぇ?と父を振り返り、晩酌をしてる父も首を縦に振る。


「折角明里も家に帰ってきたことだし、これを機に花嫁修行でも始めればいいじゃないか。
今どき三十路近いお前を雇ってくれる会社なんて、そう簡単には見つからないと思うぞ」


厳しい現実を持ち出され、ぐっと息を吸い込む。
だけど、私は結婚なんてしたくないし、仕事も時期を見てまた始めたい。


「そうかもしれないけど結婚しようとは思わないし、仕事もそのうちには見つけてくるから」


箸先で摘んだご飯粒を口に差し込み、自信もない声で囁く。

両親は顔を見合わせて呆れ、だったら直ぐにでも行動すればいいと言いだした。


「二十九歳の娘がニートなんて、恥ずかしくてご近所様にも言えやしないわ」


古い住宅街だから近所付き合いも何かと多い。

私が実家へ帰ってきたことも周知らしく、結婚でもされるの?と聞かれるんだそうだ。


「間違っても引きこもりにだけはなったりするなよ」


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