お見合い相手は、アノ声を知る人
銀行マンの父はそう言ってビールを煽る。
母も良かったわーと心から安堵して箸を進めだした。


「ちょっとー、何がいいんだか私にはさっぱり訳が分からないんだけどー?」


勝手に就職させる気になるのは止めてよ。
私にはそんな気なんて更々ないのに。


「明里、昔から『大きなものには巻かれろ』とよく言うじゃないか。小早川さんは悪い人ではないんだし、甘えてみるのも手だぞ」


昼間から散々人を欺いてきた祖父の言葉なんて聞くもんか。
プイと横を向いて食事を終わらせ、さっさと食器を流しへ運んだ。



「洗っといてよ」


仕事もしてない娘に母は厳しい。
分かってる、と言葉を返し、キュッキュッと自分の使った食器に洗剤を付けた。


サーッと水で洗い流しながらどうも変だと思ってしまう。

両親もうちと小早川家との関係を知ってるようなのに、どうして歯切れの悪い言い方ばかりするんだ。


昼間一緒に版画展を見た人も説明するのが面倒くさいと言ってたし、長い歴史が絡んでるというのは、一体どういう意味なんだろう。


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