お見合い相手は、アノ声を知る人
(……まあどんなに付き合いが長かろうが、私の代で終われば聞いても意味ないんだけど……)
興味もないし…と皿を立てた。
さっきから足元に擦り寄ってくるマルコを抱き上げ、キッチンを出て部屋へ上がった。
『ニャー』
腕の中で黒猫のマルコが鳴き声を上げる。
もうすっかりお年寄りなのに甘えん坊なのは子猫の頃から変わらない。
「よしよし。マルコは可愛いね」
人間よりも素直で羨ましい。
私もマルコのように素直になれたら今頃は違った日々を送ってただろうか。
「考えるのも虚しいな」
昼間会った人が言ってた言葉じゃないが、私は確かにマンションの更新時期とは関係なく実家へ戻った。
あの人と過ごしてた時間を忘れたくて。
そして、二度と思い出したくなくてーー。
「誰も知らないのよ、彼処に住んでた頃のことを……」
ゴロゴロと鳴く喉を撫でながら呟く。
マンションに住んでた頃の私は、誰にも言えない秘密を背負ってばかりいた。
言えなくて苦しくて心臓が潰れそうなほど、重い気持ちを持ち続けてた。