お見合い相手は、アノ声を知る人
「それは俺が此処へ取りに行くと言ったからなんだ。
このくそ暑い夏の盛りに年寄りに外へ来いとは言い難いものがあるだろう?
…まっ、本来なら貸したのはあんたになんだから、あんたが返しに来くれば良かったんだがな」


あんたあんた…と人のことを呼んでばかりいる男の頭を殴ってやりたくなる。

昨日もそうだったけど、一々言うことが歯痒い人だ。

間違ったことは言ってないと思うが、私は好きでお金を借りることになった訳ではない。


「折角お越し下さったのですからお茶でも一杯如何ですか。冷えた麦茶をお入れしますので」


「お祖父ちゃん、この人にも仕事とかあるんじゃないの!?」


上がらせたくないから思わず口を挟んだ。

私に目を向けた彼はクスッと笑って、「頂きます」と返事した。



「な…っ!」


何を言ってるんだ。
此処で呑気に油なんか売ってないで、さっさと仕事に行けばいいのに。


振り向くと口元に拳を当て、懸命に笑いを噛んでる。
やっぱりイヤな奴…と見てたらその唇を動かした。


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