お見合い相手は、アノ声を知る人
お祖父さんはニコニコしたまま私の顔を見つめ、「だから、是非このオフィスで働いてみませんか?」と再び勧めてきた。


「あの……どうして私を?」


孫のお見合い相手だからにしては優遇過ぎだ。
第一、そのお見合いだって、私は断ったつもりなんだから。


「端的に言うなら、うちの先祖がお世話になったからです。月野家のご先祖様に、ご恩返しをしておきたい気持ちがありましてな」


「ご恩返し?」


何だ、それは。


「それと、もう一つの理由としては、一路から是非に…と申し出があったからです。
あれが自分から人を雇えと言ってくるのを久し振りに耳にしました」



「えっ!あの人が!?……いえ、あの方が?」


名前を呼ぶのも馴れ馴れしい感じがして、あの方なんて堅苦しい呼び方をしてしまう。
お祖父さんはそれを聞いて微笑み、思いがけんでしょう?と顔を綻ばせた。


「ワシは槍でも降ってくるんじゃないかと空を見上げましたぞ」


時代劇のご隠居の様な笑い声を上げ、ついこっちまで吹き出しそうになる。


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