お見合い相手は、アノ声を知る人
「江戸の頃の話だぞ?死産となれば母体にもそれなりの影響が出る。次の出産が無事に望めるとも思えんだろうが」


「そうなの?」


「そうだったんじゃ。江戸時代ではの」


「うっわ〜、厄介ー」


落ち込んでた気持ちもどっかに飛んでってしまった。
その後で聞いた話を掻い摘んで言うならこうだ。


直義さんの子供を養子にした三男の武士は、月野家には心尽くせぬ借りが出来た…と言い、その恩義を決して忘れず、いつの日か必ずご恩返しをすると約束してくれた。


両家の間ではそれが脈々と語り継がれてきて、平成の今、私が結婚もしないのに実家に戻り、しかも仕事もしてないから月野の本家としての存続が危ういと祖父が思ってしまったようなんだ。


「だけど、それってお祖父ちゃんの完全な焦りじゃん」


それに私を巻き込むなんて。


「しかしな明里、ウチにはお前しか子供がおらんのだぞ。独り身のままでは義之(よしゆき)の子が月野を継ぐことになるだろうが」


義之というのは父の弟。
男ばかり三人も産まれてる家庭だ。


「それでもいいじゃん。克兄ちゃんはしっかりしてるよ」


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