お見合い相手は、アノ声を知る人
ポカーン…としたまま、その背中を見送ってしまった。


初日から飛ばしてやらなくてもいい…と言った彼の言葉が思い出されて、やけに胸が苦しくなったーーー。






「ただいま…」


ぼそり…と低い声で呟きながら玄関の框にバッグを置く。


家に帰り着いたのは午後七時過ぎ。
定時を少し回ってから部署を上がったんだけど、その時間でもメンバーは誰一人として戻ってくることはなかった。


オフィスを出る前に立ち寄った総務で話を聞けば、いつも大体八時を回らないと皆戻って来ないらしい。



「あの課の皆さんは仕事熱心でね」


困った様に笑いながら、でもこれからは貴女がいるから助かるわーと言われた。


どうしてですかと聞くと、経費処理をしてくれるから…と話しだす。

これまでは経費の請求書を月を跨いで持ってくるのが当たり前みたいなところがあって、総務の方でも困っていたんだそうだ。


「だからお願い。辞めないでね」


総務の経費担当者はそう言って、ぐっと私の手を握りしめた。
これもオフィスの会長の差し金?と、つい穿った見方をしてしまったーーー。


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