お見合い相手は、アノ声を知る人
「月ちゃんが辞めたら困るから」と言われると、こんな私でも役に立ってるのかな…と思うように変わってきた。

だけど。


「あのね、私は貴方とのお見合いもお付き合いは断りたいの。江戸時代の古い恩義とか考えなくてもいいから断らせて」


「…何だ、聞いたのか」


クスッと笑う顔を見て、ムッとしつつも「ええ」と答えた。


「私は就職させて貰えただけでもう十分助かったので縁談までは気を回さなくても結構だと会長に仰って下さい」


そう頼んだところでグラスに入った白ワインが届いた。
スパークリングタイプで細かい炭酸の泡が揺らめいてる。


「取り敢えずその話は置いとこう。先ずは乾杯でもするか」


「何に!?」


置いとけないと思いながら声を上げると、彼はニヤッと笑ってこう言った。


「あんたとの思いがけない再会に」


「なっ…」


「まさか、あの場所でまた会うとは思ってもなかったんでね」


美術館でのお見合いのことを言ってる。
あの時は版画を見た後で、結局食事はしないと振り切ったんだ。

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