お見合い相手は、アノ声を知る人
慣れない着物の帯が暑苦しくて堪らなくて、気分が優れない…と嘘を吐いた。

この人はそれを疑いつつも間に受けてくれて、それなら早く帰れ…と、タクシー代を貸してくれた。


だから、二人でゆっくり話すのは今日が初めてだったりもする。
オフィスでは二人きりになっても短時間で、お互いに仕事を抱えてて無視のような状況だったから。


「私の方こそ、まさかお見合いの相手が貴方だとは、あの場所に行くまで知らなかったわよ」


隣同士に住んでた頃の記憶が甦り、さっと顔が熱く感じる。
アノ声を聞いてると言った言葉を受けて、どうしても気後れするような気分だった。


「とにかく何でもいいから乾杯。一週間お疲れ様」


持ち上げないグラスの縁に自分のを当て、一気にゴクゴクと煽る。

その姿を見ながら、本来イケメンと食事するなんて、女子の憧れるシチュエーションだよね…と思ってた。

 
だけど、私の気持ちはタジタジ。

彼の口からあの人のことが飛び出してきたらどうしようかと思うと、気もそぞろになるばかり。

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