お見合い相手は、アノ声を知る人
「そうですな、会ったばかりだし、まだお互いのことを知りもしないことですしな」


「じゃあ、此処はやはり二人きりで話してもらって、私達は逃げることにしますか」


「ええっ!」


(それは困るよ、お祖父ちゃん!私、一円も持ってないのに!)


目で訴える私のことなんて祖父は視界にも入れない。

すっかり小早川さんのお祖父ちゃんと結託し、二人して席を立ち上がった。



「一路君、明里を宜しくお願いします」


(…って、せめて諭吉を一枚でもいいから置いてってば!)


金魚みたいにパクパク口を開けて訴えるけど、そんな仕草すらもシカトされる私って……。


(もうっ!今後一切お祖父ちゃんの最後の願いなんて聞かないからっ!)


喫茶ルームから出て行く二人は会計の前でどちらが料金を支払うかで軽くもめ、結局は待たせたから…と小早川さんが支払いをカードで済ませ、祖父はペコペコと頭を下げながらお礼を言って出た。



(何なのよー、一体〜〜!)


この後、私どうやって家に帰ればいいの?

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