お見合い相手は、アノ声を知る人
過去を思い出すもんじゃないな…と思いながら、重そうなガラスのドアが手前に引かれるのを見つめる。

少しずつ大きくなる隙間に「入れ」と言われ、背中を押されるようにして歩を進めた。


照明の明るさが落とされた店内では、ジャズピアノの生演奏が流れ、大人びた雰囲気が広がってる。

入って正面には孤の字型をしたカウンターが見え、その上はまるで鏡のようにピカピカに磨かれてた。


壁際に置かれてあるテーブルセットはシルバーとブラックで統一されてて、如何にも上流の人達が好みそうな感じ。


こんな世界が本当にあるんだ…と思いながら、深い溜息を漏らした。




「カウンターへ行くぞ」


常連の彼はいつも座る席が決まってるらしく、私はそれについて行った。
孤の字型のカウンターの左側に腰掛ける彼の右側に座り、キョロリ…と周りを見回した。



「やあ、カッちゃん、いらっしゃい」


滑舌のいい声がカウンターの奥から聞こえ、何となくそっちを振り向く。


「…あれ、今日は女連れ?どうしたんだ。初めてじゃないか」


耳を疑うような台詞を言う人は興味津々そうに、まさか彼女?と笑って聞いた。


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