お見合い相手は、アノ声を知る人
「…いや、近い将来、嫁になる女」


「えっ!」


「ちょっと!」


いきなりそんな風に紹介するのは止してよ。
今夜もずっと、私はお見合いもお付き合いも断ると言ってるんだから。


「ヒュ〜♪ カッちゃんにもそんな女性がいたんだ」


バーテンの男性は繁々と私のことを見つめ、思い出したように自分の名前を名乗った。


「宜しく。ここの店長をしてる梶野(かじの)と言います。…あ、でも、この店ではカジノをやってませんけどね」


自分の名前とカジノを絡めて笑う。
鼻の下に口髭を生やした彼の笑顔はチャーミングで、ついつられて笑ってしまった。



「ふふ」


溢れるように出た笑い声を耳にしたのか、隣にいる彼が振り返る。


「何よ」


ぽかんとしてるように見えたから眉根を寄せて聞き返した。


「…いや、なんか初めて笑う声を聞いた様な気がして」


そりゃそうだろう。
私も久し振りに笑い声が出たような気がするもん。


「あんた普通に笑えるんだな」


「はっ?どういう意味よ、それ」


あんまりじゃないと頬を膨らませると、梶野さんはクク…と苦笑する。


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