お見合い相手は、アノ声を知る人
「えっ!…いえ、あの、だから…」


(もーう!このお祖父ちゃんを何とかしてよ!)


あれ程、お見合いもお付き合いも断ってと頼んだのにダメじゃん。

うちの祖父よりも融通の利かない会長を前に、私はじたんだを踏みそうになった。


その時、コンコン!と素早いノックの音が聞こえ、秘書さんが開ける前からドアが開き、彼女はキャッ!と声を上げた。


「失礼」


手を上げて入ってきたのは同じ部署の主任。
私がソファに座ってるのを見つけ、ツカツカ…とテーブルセットの方へやって来た。


「おお、一路」


よく来た…と言われる彼を見てみると、まるで土曜の朝に自宅へ帰った時の私の様な顔をしてる。


「ジジ…いや、お祖父様」


(は?)


私の前では「ジジイ」としか呼ばない彼の言葉に耳を疑う。
お祖父様…いや、会長は彼の言葉も聞かずに「まあ座れ」と手招き、困ったように従う彼のことを細い目で見つめてる。



(こりゃあ、ウチよりも溺愛されてるかも)


そう思いながら横に座る彼に目を向けることも出来ず、どうやってやり過ごそうかな…と思ってた。

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