お見合い相手は、アノ声を知る人
私の口から全く何もありませんでした…と言ったところで、きっと信じてはもらえないんだろう。


「どうだ、一路」


(ほら、言ってやってよ。私とは何もないって)


ほらほら…と横から彼を窺い見る。

彼は視線をちらっと私に走らせ、目とは違い、何だか髪の毛の方を見たように思った。


「……はい。お祖父様の推測通り、何も…という訳にはいきませんでした」


「なっ…!」


何を言い出すのー!?


私はソファから立ち上がり、見上げる彼を見下ろす。
彼は少しだけ言葉を選ぶように躊躇い、真っ直ぐと前を見てこう言った。


「彼女の首筋に一箇所だけ跡を付けました。それも偶然ではなく故意に」


「えっ」


そう言ったまま、もしや、あれ?と思い浮かんだ。
美容院に行った時、担当者に言われた言葉と被った。


『何だかキスマークに似てますね~』


彼氏に付けられました〜?と笑いながら言われて、全力で否定をしたんだ。

彼なんていませんから…と、笑い飛ばしながら……。



「ウソ……サイテー……」


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