恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
桐谷先輩と一緒に仕事をするようになってもうすぐ半年になる。
もっと言えば、私が都内の店舗勤務から本社での商品開発部へ異動になってから、半年ということ。
数ヶ月前までビジネス文書もまともに作れなかった私は、開発の企画をひとりで進めることは一度もなかった。
でも、今日からは違う。
この半年間で先輩から吸収したことをもとに、商品アイディアを企画した。
部長たちに見てもらい、今回は私が主導で商品を販売まで持っていくのである。
「あの、すみません先輩。もちろん練習はしてきましたが、初めてでよく分からない部分もありまして……」
「やる前からそんな保険かけるなよ。俺と組んでるんだから、プレゼンなんて何回も見てきただろ?」
「も、もちろんそれはそうですけど……」
「じゃあグチャグチャ言ってないで始めて」
桐谷先輩は、厳しい人だ。
彼は数年の店舗経験ですぐに営業部、商品開発部と順に引き抜かれていった敏腕係長で、上司にも部下にも信頼されている。
それでいてこの爽やかで整ったルックスなのだから、当然、社内の女性社員の人気はべらぼうに高い。
聞くところによると本部にとどまらず、視察に行く店舗にも、彼のファンは多くいるらしい。
と、まあ。女性人気の話は置いておいて。先輩が一番すごいのは、やはり仕事の腕だ。
こうして側で仕事をさせてもらっていると、私と年は三つしか違わないのに、それ以上に途方もない実力の差を感じている。
憧れや尊敬ももちろん強いけど、それだけじゃなく、私は本当に先輩の役に立てているのだろうか、そんなプレッシャーもあった。