恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
そのときちょうど最寄り駅に到着したため、話は中途半端なまま私は「ここです」と言って立ち上がった。
家までは歩いて5分ほど。住宅街の道のりを先輩と並んで歩く。
足元はしっかりとしていたためか、先輩には手を借りることなく少し距離をあけて歩いていた。
夏が終わったせいか、夜は肌寒い。
マンションのエントランスにつくと、先輩にもう一度お辞儀をして、お礼を言った。
「今日はありがとうございました。本当に楽しかったし、ためになりました。また先輩と祝賀会できるように商品企画頑張りますね!」
「おう。ほんと今日はよく頑張ったな。……あとさ、さっきの話だけど、自信なくすことないからな」
「あ、はい。すみません、泣き言いってご心配お掛けして……」
「俺はずっと水野の仕事ぶりに目をつけてた。じゃなきゃ、わざわざ生活雑貨に引っ張り込んだりしないから。お前、インテリア希望してたのに」
───え?
「……どういうことですか?」
「お前が欲しかったから、半年前に俺がうちに入れてもらうように本部長に申し出た。黙っててゴメンな」
「あ、の……ちょっとよく意味が分からないんですけど……それってつまり、インテリアに行くはずだった私のこと、桐谷さんが無理やり生活雑貨に引き抜いたってことですか?」
「そう。だから俺に追いつくとか関係ないから。俺が水野のこと欲しかったんだから。それともインテリア行きたかった?」
「そんなことないです!桐谷さんと働けて幸せです!あの、でも、どうして?一体どこで私のことっ……」
「それは言わない。ほらもう家に入れよ。そんな大声出してたら近所迷惑だろ」
グシャグシャと、今度は乱暴に頭をかき混ぜられ、理由は誤魔化されたまま。
それでもエントランスに入っていくまでその場を動こうとしない先輩のために、私は足早に家のなかへと戻っていくしかなかった。