恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
いつもよりお偉いさんばかりが揃った会議のため、目的地の会議室は上層階にあった。
先輩と大量の資料を印刷してからエレベーターに乗り込み、手ぶらの私はドア付近にいる先輩よりも先に、閉めるボタンと二十五階のボタンを押した。
資料を半分持ちますと言ったが「順番通りに並んでいるからいい」と断られ、そわそわしながら先輩の横に立っていた。
二十五階まで静かに上がっていく。
私のような若い人もいるのに、こんな雑用を商品開発部の係長がなぜやらなければならないのかと思ったけれど、多分次から私の仕事になるから、今のうちに連れ回してくれているのだろう。
ボタンを押したときの距離感のまま離れるタイミングを失ったせいで、広いエレベーター内で私たちの距離は近いままとなった。
先輩の少し爽やかな香りが鼻を掠める。
「水野」
「は、はい」
ふいに先輩の方から名前を呼んできて、私は顔を上げた。
けれど先輩は前を向いたままで、目は合わない。
「お前彼氏いんの?」
──え。
飲み会でもされなかった今さらすぎる質問に思わず硬直する。
なんで今そんなこと……。
「……いえ、いないです」
「ふうん」
そこで二十五階に到着したため、それ以上そこで話を掘られることはなかった。
そのせいで、私から「先輩は彼女いるんですか?」という質問をすることはできなかった。