恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
さっき会議室で話したときは、ちょっと冷たい人だなぁと思っただけだったけれど、思っていた以上だと分かって私は下を向いた。
どうしよう、怖い人だったんだ。
「すみません……」
「いやだからさぁ、すみませんって言われてもね」
「うるせぇなアンタ。だったら最初からそっちが運べばいいだろ」
頭上から聞こえた、いつもより数段低い先輩の声に、思わず固まった。
顔を上げると、いつになく怖い顔をした先輩が、営業部の相手を睨み付けている。
相手が「はぁ?」と言い返している間に、先輩は知らんぷりして私に手を差し出し、反射的にそれを握ると、ぐいっと引っ張って起こしてくれた。
私が無事に立ち上がると、先輩はやっとその人に反論の続きを始める。
「うちの水野ひとりじゃどうやったってそんなもん持てないだろ。見てわかんねーのかよ。だいたい営業部のもんなら営業部が持っていけよ」
「あのさぁ、言っとくけどその子が勝手に片付けしてたんだよ。ついでにプロジェクターも頼んだだけで、無理なら無理でそっちだって断ればよかったんじゃない?そしたらこっちだって頼まなかったし」
ううう、おっしゃる通り……。
「うるせぇな。コイツは親切でやってたんだろうが。年上の頼みなんか普通断れねぇだろ、察しろよ。女の子一人にこんなもん頼んどいてちょっと落としたくらいでグタグタ言われる筋合いねんだけど?心配なら壊れてないかさっさと確かめてこいよ」
「先輩、あの、私もう大丈夫ですからっ」
先輩は言い返すことを止めようとしなくて、これ以上は私のせいでトラブルが起きる気がした。
そんな申し訳ないことにはしたくなかったので、先輩をなだめ、相手にはその隙に大きく頭を下げると、その人はぶつぶつと文句を言いながらまたエレベーターに乗っていった。