恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
「うちの浅見に聞いたんだけど、水野さん、桐谷くんとふたりで飲みに行ったって本当?」
荒木さんはモジモジと両の指を絡ませながらそう切り出してきた。
やっぱり浅見さんに言うべきではなかった。
こうやって私との話が変な方向に拡散されていってしまうのは、きっと桐谷先輩は嫌がるに決まっている。
「そうですけど……ふたりで飲みに行ったというか、祝賀会です。ほとんど仕事上のようなものですし、私が無理矢理誘ったカンジでしたけど」
「仕事上だとしても、桐谷くんと飲みに行った子なんていなかったのよ。同期だって誰もふたりじゃ飲みに行ってないもの」
この人が桐谷先輩と同期なら、私より三つ上ということ。
「あの、それがどうかしましたか?」
「それを聞いたから私、この間、桐谷くんのこと個人的に誘ってみたのよ。二人で飲みに行かない?って」
「……えーと、それで」
「ダメだった。断られたの。忙しいって」
どうしてだろう、ちょっとホッとした。
「そのあと浅見に確認したら、水野さんは桐谷くんから恋愛対象に見られてないから飲みに行けたらしいんだって聞いて。私、断られたってことはまだ希望あるのかなって。水野さんはどう思う?」
「どう思う、と言われましても、私には……」
荒木さんは決して嫌味な言い方ではなく、真剣に私の意見を聞いているように思えた。
適当に答えることもできるけれど、荒木さんに何か言って桐谷さんに迷惑をかけるのは嫌だし。
それに、浅見さんに伝えた「私が恋愛対象外だから飲みに行けた説」も実は勘違いだったのだけれど、それを荒木さんに伝えると多分もっと話がこじれるはず。
本当は変な希望を持って先輩と飲みに行こうなんて思わないほうが先輩とは上手くいくんだろうけど、かといって私が偉そうにそんなアドバイスなんてできるわけもない。