恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
デスクに戻って仕事を始めたはいいものの、荒木さんのために桐谷先輩を飲み会に誘わなければならないのだと思うと、気が重かった。
正直、荒木さんのような人は、今回飲みに行けたとしたら今後は仕事中でも先輩にアタックするだろう。
そういうのは苦手だと断言していた先輩を、わざわざ私のほうから巻き込むなんて失礼だ。
それに三人で飲みたくなんてない。先輩と荒木さんをふたりきりに仕立てるなんてことも絶対に嫌だ。
あれ? 私、どうしてこんなにモヤモヤするんだろう。
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今日は忙しくて七時まで残業してしまったけれど、桐谷さんはそれ以上にやることがあるのか、まだ帰る素振りを見せようとしない。
私は周りに人がいないことを確認して、どうせ断られるんだからすぐに済ませてしまおうと思い、忙しそうな先輩に話しかけた。
「先輩、お疲れ様です」
「もう終わり?」
「はい。何か手伝いますか?」
「いやいいよ。お疲れ」
「あ、そうだ、先輩」
「ん?」
「今度また飲みに行きませんか。仕事が落ち着いたら。この間楽しかったので」
そう言うとすぐに、先輩のタイピングの音が止まった。
いきなり「荒木さんも一緒に」なんて言ったらバッサリと断られるし、何より先輩の機嫌を損ねてしまうかもしれないから、慎重に、当たり障りなく声をかけた。
「ごめん。今月は忙しいから無理だわ」
しかし、先輩はそう答えた。
まだ荒木さんの話は出していなかったのに、私は荒木さんと全く同じように断られ、一瞬頭が真っ白になった。
「……そうですか。じゃあ、来月は?」
「うーん、来月のことは、まだ分かんねえんだよな」
先輩はタイピングを再開し、もう一度「お疲れ」と言い直した。