恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
混雑している地下鉄に乗り込んで、私は呆然と、目の前で眠りこけているおじさんを眺めて座っていた。
前はここに、酔っぱらったおじさんが座っていた。
先輩と初めてふたりで飲んで、初めて一緒に帰った日だった。
あのときは、先輩はもっと近くにいた。
そのせいで自分は先輩にとって本当に「お気に入り」なんじゃないかって勘違いしていたけど、そんなことはなかったんだ。
プライベートに踏み込めば拒絶される、ただの女性社員。
そのことを忘れちゃダメだったのに……。
明日からは気持ちを入れ換えて頑張ろう。
先輩のように、こんなモヤモヤとした訳のわからない感情は持ち込まずに、誠心誠意仕事に打ち込まなくては。
電車から降りてマンションまで向かう道のりの中で、私は荒木さんの番号に電話をかけ、断られたことを報告した。
彼女との電話を家に持ち帰るのも、明日の仕事の時間にかけてこられるのも嫌だった。
このモヤモヤをいつまでも引きずりたくなかったのだ。