恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
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それから数週間が経ったけれど、実際先輩は本当に忙しそうだった。
いつ見ても集中して何かの書類を作っており、今月は忙しい、というのはもしかしたら本心だったのかもしれない。
「お疲れ、水野」
「え?あ、はい。お疲れ様です」
先輩はデスクで作業に没頭していたかと思うと、たまにこんなふうに顔を上げて、わざわざ私に話しかけることがあった。
「この前マルシェのデザイン最終案まとまったって言ってたろ?俺こないだ製造部行ったとき見たぜ」
「え?本当ですか?どうでした?」
「すげー良かった。もう水野も一人前だと思ったよ。俺コーヒーメーカー持ってないから、給料で買おうかな」
「やだ、なんか恥ずかしいです」
「お前は持ち物リフレシリーズだらけのくせによく言うよ。……でもまあ、本心だから。水野はよく頑張ってるよ」
──先輩?
たしかにいつも励ましてくれるけれど、こうして改めて言われることには違和感があった。
一人前だと言われると、なんだか寂しい。
私は先輩がいないと駄目なのに。