恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
*******
この日の夕方、このオフィスには私と先輩だけとなった。
会議が長引いていて課長も部長も戻らず、他の社員はみんな定時で帰っていった。
先輩は相変わらず残業で、まだ帰る気配はない。
私もデザインの最終案が決まったことで、営業部との打ち合わせの資料づくりに追われていた。
無言でふたり分のタイピングの音が響いている。
私は桐谷さんに最低限のことのみ質問して、他のことは過去の資料を見ながら自分の力で解決していった。
これ以上私が負担をかけてしまったら、先輩の残業がいつまでも終わらないからだ。
「なあ水野」
沈黙を破ってきたのは、先輩のほうからだった。
「はい」
「終わりそう?大変なの?」
「いえ、大丈夫です。何を書けばいいかは分かってはいるんですが、ちょっと手間取ってるだけで……」
自分のピンチには何度も助けてもらったのに、先輩が忙しいときにお手伝いができなくて情けない。
相変わらず自分のことで精一杯で、ダメな後輩だ。
「水野」
先輩は手を止めた。