恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※

「先輩」

先輩はまだ半分しか読んでいないけれど、私はそれを遮った。

すると私の顔を見ずに資料に目を向けたまま、「んー?」と返事をされただけだったので、私は思いきって資料を持つ先輩の手首を掴んだ。

先輩は少し驚いたように、やっと、私の顔を見た。

「あの、先輩……何か、あったんですか?」

私の言葉に、先輩は目を見開いたあと、すぐに泳がせた。

「何、どうしたいきなり」

「いえ、最近、ちょっといつもと様子が違うように感じまして……不安定というか……」

「え、俺不安定なの?」

先輩は冗談めかしてそう言って笑ってみせたけれど、私は本気だった。

何かあったのなら話してほしい。

「何もないなら、いいんです。ただちょっと気になりました。先輩は最近、ずっと残業してますよね。なんの残業をしてるんですか?」

「それはお前には関係ないんだから、なんでもいいだろ」

「関係なくなんかないですよ。私のことはいつも助けてくれるのに、私は全然力になれなくて、悔しいんです。お手伝いできることがあれば何でもやります」

少しの沈黙。先輩は何かを考えている。

背後の大きな窓からは、もう夜空が見えていた。

しばらくして、キイ、という椅子の音がして、先輩が椅子がさらに私のほうに近づくと、頭をポンポンと撫でてくる。

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