恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
先輩がバーゲンのようにモテているせいで、今日はさらに手の届かない人になっている気がした。
だから課長のところへ来てくれて、やっといつもの先輩になった気がする。
「水野」
黙っていた私に、先輩は声をかけた。
「は、い」
先輩は私のグラスにもビールを注ぎ足してくれた。
おめでとうございます、は結構この3日間で言いっぱなしだったし、ありがとうございます、も常々言っているし……。
注がれながら先輩にかける言葉を探していたら、先輩はいつものように、私の頭をクシャリと撫でた。
「ありがとな、水野。お前が早く成長してくれたから、俺は安心して次に行ける」
「先輩……」
「本当に水野は覚えも早いし、怖じけないで何でも挑戦するし、教えがいのある後輩だった。お前みたいに根性のある後輩じゃなかったら、俺はあんなに厳しく指導してこれなかった。水野の育成係で良かったよ、楽しかった。ありがとな」
「私、も……先輩に育ててもらえて、本当に良かったです」
改めて感謝を言葉にしたことで、私はここで一気に実感が沸いてきた。
明日からは、先輩はいないんだ。
幹事の男性社員が大きく手を叩き、会場全体に響く声で召集をかけた。
「はい皆さん!お話も尽きないでしょうが、そろそろ締めの時間が近づいてまいりました!ここで異動する桐谷係長から、最後にひと言いただきたいと思います!」
インテリア部門からこちらへ先輩の後任として異動になる係長もいるけれど、他部署へと行ってしまうのは今回は先輩だけであり、改めての挨拶は桐谷先輩のみがクローズアップされる。
実感が沸いてきた私はザワザワとする気持ちのまま、先輩の挨拶を聞く。