恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
先輩がきちんとジャケットを着てピシッと前に立つと、途端に会場は静かになった。
「えー、商品開発部の皆さま、本日は僕のためにお集まりいただきありがとうございました。また、僕がここに身を置いた四年半、ご指導下さった上司の皆さま、お世話になった後輩たち、本当にありがとうございました。この度勝手ではございますが、かねてより希望していましたマーケティング戦略部への異動が決まりまして、月曜からの赴任が決まっています」
先輩の声が遠い。
近くに行きたくて、どんどん前に行った。
「商品開発というのは奥が深く、まだやり残したことも多々あります。特に、今日まで僕が育成係を担当してきた水野さん。彼女の育成を投げ出した形で行ってしまうのは、大変心残りであり申し訳なく思っています。生活雑貨部門の皆さま、どうか彼女をこれからも変わらず指導してあげて下さい」
私の名前を出してくれた。
じゃあまだ側にいて下さいよ。私のことが心残りなら。
あと半年だけでもいいから、こんな心の準備ができないまま先輩と離ればなれなんて、耐えられない。
「しかしながら僕はこのタイミングで異動が決まり、大変嬉しく思っています。フロアは変わりますが、どうか今後も同じ本部として一丸となり協力していきましょう。それでは今後もご指導いただくこともあると思いますが、一度皆さまとはお別れです。本当にありがとうございました!」
やっとここで、待っていたように女性社員の悲鳴が聞こえてきた。
私も心の中では叫びたかった。
先輩に駆け寄って、どうして異動してしまうんですかって問いただしてしまいたいくらい。