恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
私がヒートアップして泣いたまま、花束を渡すことを忘れていたためか、司会の人はコホン、と喉を鳴らした。
「えー水野さん。大変感動的なメッセージ、ありがとうございました。それでは花束贈呈をお願いします」
我に還り、やっと顔を上げて先輩の方を見ると、先輩は柔らかく微笑んでくれていた。
ゆっくりと近づいて花束を渡そうとすると、先輩は私の背中に手を添えて、思いきり引き寄せてきた。
「水野!ありがとな!」
「えっ、先輩っ……」
気づけば、花束ごと先輩の胸の中に強く強く抱き締められていた。
ここで会場は今日一番の悲鳴と、そして一番の拍手に包まれていた。
「それでは、感動的な師弟の別れをご披露いただいたところで、これにて本日の送別会はお開きとなります!皆さま気をつけてお帰りください」
勢いで私は先輩に抱き締められたままになっていたけれども、先輩も私を離そうとはしなかった。
先輩は私を抱き締めたまま、他の人に別れの挨拶を済ませている。
泣いている私の頭を肩に置いたまま、ポンポンと頭を撫でてくれて、そのままの状態で、先輩は帰っていく人たちに「ありがとう」と声をかけていくのだった。
なぜかそれで許される空気になっていた。
「水野さん大丈夫?」「ずるーい」
そんな声をかけていく人もいたけれど、皆冗談半分に笑っていた。
“感動的な師弟の別れ”
司会の人が上手くまとめていたように、皆は先輩の胸の中で泣き崩れている私をそう捉えてくれたらしい。
でも私は違った。
初めて先輩に正直な気持ちを吐き出して、そして初めて、こんなふうに抱き締めてもらった。
先輩の腕の中でずっと泣きながら、私はもうどうにもできない感情に気がついてしまった。
──私、先輩のことが、ずっと好きだった。
今までずっと。