恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
『なんでって、心配になるだろ、あんなの……。次の電車で追いかけたんだよ』
「し、信じられないですっ!普通追いかけて家まで来ますか!? エントランスにはどうやって入ったんですか!? オートロックでしたよね!?」
『たまたま他に入ってく人がいたから、一緒に入ってきた』
「この部屋の番号はどうやって分かったんですか!?」
『お前いつも持ってる鍵に部屋番号書いてあるじゃん』
やだ、そんな……。
先輩は何を考えているんだろう、いきなり私の家まで来るなんて。
わざわざ振り切ってきたのに、部屋の前に先輩が来てしまっては意味がない。
もう迷惑かけたくないし、嫌われたくないし、これ以上辛い思いはしたくないのに。
『・・・水野』
「心配かけてしまってすみませんでした。もう大丈夫ですから……帰ってください、先輩」
『どうしたんだよ』
「私、これ以上先輩に嫌われたくないんです。本当は先輩の異動なんてこれっぽっちも嬉しくない。でも笑っておめでとうって送らなきゃいけなくて、すごくつらくて……」
『……水野』
「あれが私の本音なんです。呆れましたか?先輩と離れたくない、行かないでほしい、それだけです。先輩の都合なんか、仕事のことなんか、全然考えられてないんです。本当に、こんな情けない後輩で、先輩の期待に応えることができなくて……本当に、ごめんなさい」
涙が関をきって流れ出した。
先輩の気配はずっとそこにあったけれど、私が泣き止むまで声を出さず、ずっと静かに聞いてくれていた。