恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
「じゃあ、あれは何なんですか!私のこと引き抜いたって言ってたのは。聞いたのに教えてくれなかったじゃないですか!」
『言っただろ、ずっと水野に目をつけてたって。お前が池袋中央店にいて、それで俺がインテリア部門にいたときだよ。……お前本当に俺のこと全然覚えてないんだな』
「え?」
『教えてやるよ。だからここ開けて?』
「先輩……」
『これじゃあ近所迷惑だろ。玄関先でいいから。……水野の顔見て話したい。な?』
先輩の囁くような甘い声に負けて、私は泣き腫らした目をそのままに、ゆっくりと扉に近づいた。
この向こうには先輩がいる。
ドアノブに手をかけてそれを引くと、そこにはやっぱり、桐谷先輩がいた。
『水野っ』
少し乱暴にドアが開けられ、すぐに先輩が中に入ってきた。
暗い玄関で靴も脱がずに、顔を合わせた途端にそこですぐに抱き締められる。
力強い先輩の腕に包まれて、頭を胸の中にぐっと押し付けられた。
「水野……可愛い。ホントに可愛いよお前。可愛い……」
「先、輩……」
私はいっぱいいっぱいで抱きしめ返せるほどの余裕がなかったけれど、それでも先輩は角度を変えて何度も抱きしめてきて、その度に体が熱くなっていった。