恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
「可愛い」と惜しみなく言われることに素直に動揺し、私は一度顔を逸らした。
もれる息が熱い。先輩の息も。
「いきなりなんなんですかっ……可愛いとか、そんなこと今まで言ったことなんてないじゃないですかっ」
「馬鹿。仕事中にお前のこと口説けるわけないだろ。でもずっと可愛いと思ってたよ。好きにならないわけないだろ、素直で真面目で一生懸命で、お前みたいな可愛い後輩見たことなくて、こっちはずっと抑えてた」
「嘘……」
「嘘つくかよ。こっちは公私混同しないように必死に抑えてんのに、お前は能天気でさ。……つい手が出たこともあったろ」
……会議室でのキス。
「……俺がインテリア部門にいたとき、お前、売り場で表彰されたことあるだろ?」
「え?……あ、三年前の……?」
話は急に、仕事のことへと戻された。
それまでの話が色々と唐突すぎて頭がボーッとしているけれど、私は三年前のことを思い出すことにした。
「そう。お前が表彰された『北欧家具キャンペーン』を企画してたのは俺。お前はそれを一番売ってくれたんだよ」
三年前、北欧家具キャンペーンという企画のお知らせが店舗に届いたとき、私は胸が踊った。
北欧デザインのインテリアはこのときまだ流行前で、私は個人的に好きだったけれど、きっとチェックしている人は少ないだろうと思っていたのだ。
でもスローライフでいち早く大々的に取り扱うことになって、私は絶対にこれを成功させたいと思った。
売り場から北欧家具の素晴らしさを最大限伝えたい。
そんな思いで、私はキャンペーンに取り組んだのだ。
「実はあのときキャンペーンは伸び悩んでた。あのキャンペーンを失敗させるのは俺にとっても部門にとっても痛手だったから、俺はどうにかして建て直さなきゃならなかったんだ。それで、一番売れてた池袋中央店に視察に行ったんだよ」
「……あ!」
そういえばキャンペーン中、本部から若い男の人が来たことがあったことをやっと思い出した。