恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
「あのときのこと、俺はよく覚えてる」
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『あの!すみません!本部の方ですか?』
あのとき、私は売り場に視察に来た若い男の人に思わず声をかけていた。
北欧家具のレイアウトを変えたくてテーブルを運んでいたのだけれど、どうも一人では難しくて、遠いレジの人を呼んでくるくらいなら、黙って立っているその人に手伝ってもらおうと思ったのだ。
『そうだけど』
『じゃあこれ運ぶの手伝ってもらってもいいですか?ここに持っていきたいんです』
『え、あぁ、分かった』
視察の人は特に嫌がる様子も見せずに手伝ってくれて、そして運び終わったあとはそのレイアウトを眺めていた。
『これは君がレイアウトしてるの?』
『そうです』
『……こういう配置で指示が出てたっけ?』
『違います。でも、私はこの方が絶対に売れると思います!たしかに北欧家具には北欧雑貨で固めたほうがいいと思うかもしれませんけど、北欧デザインの良いところはそこではないと思うんです』
『……へぇ、どんなとこ?』
『どんなデザインにも適応するということです。特に、スローライフで取り扱っているナチュラル系の家具や雑貨とは相性がいいです。だったらそっちと絡めてレイアウトしたほうが、手に取りやすいですよね。だってここに来る人はナチュラル系の家具で揃えている人が大半なんですから』
あのときはレイアウトに夢中で偉そうなことを言ってしまったけれど、あの男の人が桐谷さんだったなんて思いもしなかった。