恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
後日談 エレベーター内
「うおっ、水野!」
「わー! 桐谷先輩! お久しぶりです!」
先日別の部署に異動した桐谷係長と、エレベーターでばったり再会した。
本部に来たばかりの私の教育係をしてくれた一番お世話になった先輩。
「どこ行くの?」
「お昼買いに行くんです。ちょっとコンビニに」
「そっか。俺はこのまま店頭調査」
先輩が奥に入ったのを確認してから、閉まるボタンと1階のボタンを押した。
ここは15階だから、1階まで1分くらいだ。
1分の話題、何かないかな……。
「先輩。新しい部署はどうですか?」
「別に普通だよ。……ところで水野、お前あれから全然連絡くれないよな」
「へっ!? してますよ、昨日だってメールしてたじゃないですか」
「俺からだろーが全部」
「だ、だって……」
私がモゴモゴと言い淀むと、先輩は拗ねたようにプイッとそっぽを向いてしまって、
「……俺たち、付き合おうってなったんじゃなかったっけ?俺の勘違い?」
と、呟いた。
「せせせ先輩、そんなっ……付き合ってます、付き合ってますよぉ〜」
そうなのだ。
この女性社員に大人気の桐谷係長と、まさかの私。送別会の日に両思いが判明し、ナイショで付き合っている。
それはまだ二週間前の出来事で、異動してから二週間は先輩もやることがたくさんあるだろうと思って、気を遣って私からは連絡したことはなかった。
もちろん顔も合わせていない。
デートもどこかへ行こうという話をするばかりで、具体的な日付も出さないでいた。
先輩だってそうだったし、てっきり忙しいのかと思ってたのに……。
そもそも二人きりとはいえ、先輩が会社で恋愛の話題を出すとは思ってなかったから、今も戸惑っている。