恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
先輩は多分、この微妙な空気を残してエレベーターを降りて、プイッと外へ出て行って、今日は私から連絡させるつもりだったのだろう。
私も反省してそうしようと思っていた。
それなのに、この後このエレベーターに予想外のことが起きたのだ。
「……なあ。このエレベーター動いてるか?」
「え? ……あ、10階から動いてませんね! 誰かが停めたならドアが開くはずなんですが……」
「止まってるよな? 故障?」
「えぇ!? そんなっ……!」
お財布だけを持っていた私はそれをブンブン振って慌て始め、エレベーターの四隅を意味もなく確認して回った。
「ど、どうしましょう先輩っ、このまま開かなかったらっ」
「んなわけあるかよバカ」
私とは対照的に、ため息をついた先輩は実に落ち着いていて、エレベーターのボタンをひとつひとつ確認した。
そこに〝非常用ボタン〟というのがあり、先輩は迷わずそれを押した。
しかし、カチ、と音がしただけで、ボタンは正常に役目を果たせているとは思えない。
思い出すと、普段はこの非常用ボタンはランプがついていた気がするけれど、今はどのボタンもランプがついておらず、押しても反応しない。
「水野、スマホは」
「デスクに置いてきちゃいました……」
「なんでだよ。離席中はどんなときも持ち歩けって言ってんだろ。お前、俺が異動したからって気ぃ抜いてんじゃねーぞ」
「先輩、それは謝ります! でもお説教はあとにして、今はここから出る方法を考えないと!」
「おーい水野ちょっと落ち着け」