恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
ふわりと、先輩の手が私の頭を撫でた。
あ、この感じ、二週間ぶり……気持ちいい……。
「俺は持ってるから、とりあえず誰か呼ぶよ」
「お願いします」
先輩は会社のガラケーを開いて通話ボタンを押し、それを耳にあてた。
そして先輩はすぐに苦い顔をした。
「だめだ。電波が弱い」
「えぇ!?」
「これじゃ外と連絡とれねぇな」
「そんな、じゃあ脱出するしかないんですか?」
「お前な、吊る下がってるエレベーターの中から脱出しようとしたら死ぬぞ」
先輩の『死ぬ』という言葉に完全にビビッてしまった私は、今度はお財布をキュッと抱き締めて青くなった。
恐怖で血の気が引いていく。
実は私は、観覧車とかロープウェイとか、吊り橋とか、吊るされている系がダメな人間なのだ。
「水野?」
「すみません、私、こういうのちょっと怖くて……」
「大丈夫だよ。このビルの全員が使うエレベーターだぜ? 待ってりゃ誰か来るから。な?」
「は、はい、」
それでも怖くて、私は固く目を閉じて、自分の体を抱き締めた。
「……水野」
すると、小さく縮こまっていた私の肩を、先輩は引き寄せた。
一瞬で恐怖が吹き飛んで、頭の中が真っ白になった。
「先輩!?」
「まだ怖い?」
「あ、あの、ええとっ……いいえ、大丈夫です」
先輩は持っていた鞄をエレベーターの床に置いて、私の肩に回っている手をするりと背中にまで回していって、そして正面から抱き寄せた。
先輩の爽やかな匂い。スーツ越しに伝わる引き締まった体。優しく動く指の感触。
心臓の音が聞こえちゃう。
この二週間、本当はこんな風に抱き締めてもらいたくて仕方なかった。