陸の漁り火
「え? おまえあそこ入ったの?」

 近くに住んでるダチの言葉に、俺は缶コーヒーから口を離した。

「好きで入ったんじゃねえよ。甥を連れ戻してくれって頼まれて仕方なくさ」

 親戚の甥が肝試しに入ったらしく、渋々連れ戻しに行ったらしい。

 噂になっていた連中の一人がこいつの甥だったとは驚きだ。

「大丈夫だったのか」

 いくら信じていないとはいえ、あれだけ噂になっていれば気にならないわけはない。

「おれはなんともない」

「何も見なかったのか?」

 そう尋ねると、ダチは引きつった顔をした。

「おい?」

「いや、実はな──」

 甥を見つけて連れ戻そうと手を引き玄関にむかったとき、変な声が聞こえた。

「それに思わず振り返ったんだ」

 そしたら──

「そしたら?」
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