a bedside short story
1st.Aug. 雷
さてと、どうしたもんかしら。
枕元にバサッと置いた写真の束――夏夜夢(かやむ)を暫し眺めて溜め息をつく。
胡散臭い。
胡散臭い――んだけれど。
写真は31枚、8月は31日。
1日ずれると何となくイヤな感じだ。
使わないで、後で叔父さんに何か言われるのも嫌だしなあ…。
1枚やってみて、何もなければ、それからやめればいいんだしね。
とりあえずいろいろ言い訳を浮かべながら、私は結局1枚の写真を手にした。
偶然手に取ったのは、稲光の写真。
モノクロの画面の中でも、ひときわ眩しい光の白。
偶然今日は雨だし、ちょうどいっか。
私はその写真を枕の下に滑り込ませて横になった。
********************
天気予報は、こんな日ばかり当たる。
楽しみにしていた夏祭りだったが、窓ガラスに叩きつけられる雫はどんどん強くなっている。
お祭りは土日両日の開催だが、“彼”は日曜日に仕事が入っていたから、一緒に行くには今日しかチャンスはなかったのに。
万が一の天候の改善に賭けて、小雨の中浴衣で“彼”の家まで来たけれど。
無理、か……。
深く深く溜め息をつき、さすがに諦めてカーテンを閉める。背中で失笑する声がした。
「現実は受け入れられた?」
「……はい」
「じゃあ、夕飯にしようか」
穏やかな声に促されてゆるゆるとリビングのテーブルに向かえば、目に入ってくるたこ焼きプレート。
「これ、いつの間に……?」
「外ばっかり見ててきづかなかったでしょ? あんまりにも後ろ姿が淋しそうだったからさ」
念のために、ゆうべ押し入れから引っ張り出しておいて良かったよ――そう言った微笑みに、胸がぎゅっとした。
「少しは元気出た?」
「はい!」
「じゃあ、作ろうか」
溶いた粉に、キャベツ、長ネギ、紅しょうがのみじん切り、揚げ玉を入れ、窪みに向かって流し込む。
ボイルしたタコの切り身を1つずつ入れる骨張った長い指が、必要以上に色っぽくてヘンにドキドキした。
隙間にできた生地を窪みに寄せながら、くるくると回すと、それまでいびつだったクリーム色の固体が、それはそれはキレイな球になった。
「うまーい!」
「関西出身の父さん仕込みだからね。たこ焼き作りは自信あるよ」
話ながらも止まらない手は幾つもの球体を作り上げ、舟形のお皿に積み上げていく。
できるもの全て、積み重ねていく。
ハタと我に返り、私も手伝った。
どんなに頑張っても、“彼”のような芸術品は作れなかったけれど。
2人で黙々と生地を焼き、ボウルが空になり、お皿2枚が山盛りになると。
“彼”はたこ焼きプレートをキッチンに運び、代わりにマグカップのような白い筒を手に帰ってきた。
それをテーブルに置き、照明を消す。
「え……?」
その声が形になるか否かのうちに、“彼”を振り返ったはずの視界は星に満たされた。
「棚の肥やしになってたホームプラネタリウム。捨てなくて良かったね」
人工的な星の光では、“彼”の顔はよく見えなかったけれど。
私が大好きな優しい微笑みを浮かべているに違いない。
「花火は上がらないし出店もないけど、星めでながらたこ焼き食べよ?」
胸が、ありがとうでいっぱいになった。
外では相変わらず雨粒が音を立てている。
遠くで雷も鳴っている。
お祭りは中止。
だけど。
もちろん、あなたがいればそれでいいよ――――
********************
目を覚ますと、朝だった。
何の変哲もない、私の部屋。私のベッド。
ただ、何か予感がして枕をどかすと、昨日差し込んだはずの写真は跡形もなく消えていた。
残り、あと30枚。
枕元にバサッと置いた写真の束――夏夜夢(かやむ)を暫し眺めて溜め息をつく。
胡散臭い。
胡散臭い――んだけれど。
写真は31枚、8月は31日。
1日ずれると何となくイヤな感じだ。
使わないで、後で叔父さんに何か言われるのも嫌だしなあ…。
1枚やってみて、何もなければ、それからやめればいいんだしね。
とりあえずいろいろ言い訳を浮かべながら、私は結局1枚の写真を手にした。
偶然手に取ったのは、稲光の写真。
モノクロの画面の中でも、ひときわ眩しい光の白。
偶然今日は雨だし、ちょうどいっか。
私はその写真を枕の下に滑り込ませて横になった。
********************
天気予報は、こんな日ばかり当たる。
楽しみにしていた夏祭りだったが、窓ガラスに叩きつけられる雫はどんどん強くなっている。
お祭りは土日両日の開催だが、“彼”は日曜日に仕事が入っていたから、一緒に行くには今日しかチャンスはなかったのに。
万が一の天候の改善に賭けて、小雨の中浴衣で“彼”の家まで来たけれど。
無理、か……。
深く深く溜め息をつき、さすがに諦めてカーテンを閉める。背中で失笑する声がした。
「現実は受け入れられた?」
「……はい」
「じゃあ、夕飯にしようか」
穏やかな声に促されてゆるゆるとリビングのテーブルに向かえば、目に入ってくるたこ焼きプレート。
「これ、いつの間に……?」
「外ばっかり見ててきづかなかったでしょ? あんまりにも後ろ姿が淋しそうだったからさ」
念のために、ゆうべ押し入れから引っ張り出しておいて良かったよ――そう言った微笑みに、胸がぎゅっとした。
「少しは元気出た?」
「はい!」
「じゃあ、作ろうか」
溶いた粉に、キャベツ、長ネギ、紅しょうがのみじん切り、揚げ玉を入れ、窪みに向かって流し込む。
ボイルしたタコの切り身を1つずつ入れる骨張った長い指が、必要以上に色っぽくてヘンにドキドキした。
隙間にできた生地を窪みに寄せながら、くるくると回すと、それまでいびつだったクリーム色の固体が、それはそれはキレイな球になった。
「うまーい!」
「関西出身の父さん仕込みだからね。たこ焼き作りは自信あるよ」
話ながらも止まらない手は幾つもの球体を作り上げ、舟形のお皿に積み上げていく。
できるもの全て、積み重ねていく。
ハタと我に返り、私も手伝った。
どんなに頑張っても、“彼”のような芸術品は作れなかったけれど。
2人で黙々と生地を焼き、ボウルが空になり、お皿2枚が山盛りになると。
“彼”はたこ焼きプレートをキッチンに運び、代わりにマグカップのような白い筒を手に帰ってきた。
それをテーブルに置き、照明を消す。
「え……?」
その声が形になるか否かのうちに、“彼”を振り返ったはずの視界は星に満たされた。
「棚の肥やしになってたホームプラネタリウム。捨てなくて良かったね」
人工的な星の光では、“彼”の顔はよく見えなかったけれど。
私が大好きな優しい微笑みを浮かべているに違いない。
「花火は上がらないし出店もないけど、星めでながらたこ焼き食べよ?」
胸が、ありがとうでいっぱいになった。
外では相変わらず雨粒が音を立てている。
遠くで雷も鳴っている。
お祭りは中止。
だけど。
もちろん、あなたがいればそれでいいよ――――
********************
目を覚ますと、朝だった。
何の変哲もない、私の部屋。私のベッド。
ただ、何か予感がして枕をどかすと、昨日差し込んだはずの写真は跡形もなく消えていた。
残り、あと30枚。