a bedside short story
6th.Aug. 西瓜
昨日の社食の日替わりA定食に、西瓜がついてきて、
夏だなーと思った。

だから今日は、西瓜の写真を選んでみた。


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『明日、実家に帰るから付いてきて』

“彼”から夜中に届いたメッセージ。
寝ぼけた目で開いたけれど、一気に覚醒する。

実家に?
付いていく?
私が?


断るすべもなく、その後まともに寝られないまま迎えた朝。
しかし、着いたご実家は、私の予想を裏切る大混乱っぷりだった。


「貴女が彼女さん? 今日は来てくださってありがとう。助かるわ」

台所と居間を行ったり来たり、慌ただしく動いているお母さんが、歩きながら笑顔で挨拶してくれる。
その周りをちびっこたちが付いて回っていた。
右手にも左手にも、几帳面に切り揃えられた西瓜が所狭しと並んだお盆を手に、慣れた様子でちびっこをまいている。

「何かお手伝いしましょうか?」
「いいの、いいの。こっちは気にしなくていいから、一切れでも多く召し上がっていって? お願いね?」

居間にある大きな食卓にお盆を置くと、お母さんはちびっこも置いて再び台所へ消えていった。
食卓には、今置かれたお盆の他にも3つ、西瓜が並んだ大皿がたたずんでいた。
なんてことない風に席に着いた“彼”に、おそるおそる尋ねる。

「どうしたの、この西瓜の山?」
「母さんの兄さん……てか俺の伯父さんが、西瓜農家でさ。この時期になると、しこたま西瓜送ってくんの」
「はあ……」
「軽トラでだぜ?」
「それでこの量……」
「食べ頃前に持ってきてるとはいえ、限界あるからさ。一気に消費するために家族まとめて招集かかんだよ」

それで手伝うより食べて、なんだ。
切り分け方が熟練なのもうなずける。

「ま、騒がしいけど、遠慮しないで食って?」

お母さんを囲んでいたちびっこたちは、“彼”の甥や姪。親たちはいい加減に食べ飽きたと、体よく買い出しにかこつけて逃げたらしい。
一人っ子でこの賑やかさに免疫がない私は、新鮮さを覚えながら西瓜を口に運んでいた。
数のことを考えなければ、今まで食べた西瓜の中で1番美味しいと言えるほど見事なものだ。

「ねえ、おねえちゃん」

隣に、小学校にも上がっていないくらいの甥っ子さんが来て、私を不思議そうに眺めていた。

「なあに? どうかした?」
「西瓜の種は、食べちゃいけないんだよ? お腹痛くなるよ?」
「え? おねえちゃん、種まで食べちゃうの?」

ぎょっとしたような口ぶりで、始めの子より少し大きな男の子が目を見開いて私を見る。

「ばーか。種食べるなんてあんたたちじゃないんだから。彼女さんは、お兄ちゃんの前で種を出さないように気を遣ってるのよ。彼氏の前では可愛くいたいんだから、そういうこと言わないの!」

彼らより少しだけ年上の女の子が、しれっと解説してくれる。さすが女の子。ませている。けれど、それが逆に“彼”へのネタバレになってしまうとは気づいていないらしい。

「んなこと気にすんなよ。中高の恋人ごっこじゃあるまいし」

鼻で笑って“彼”が言った。

「将来的には、俺たちの家でも同じ現象が起こんだから。今だけカッコつけてても仕方ねえよ」

さらっと自然に“彼”は言ってのけたけれど。
そしてフツーにまた西瓜をかじっているけれど。
あれ?
私、今、
物凄いことを言われた気がするのですが……?

「おねえちゃん。おにいちゃんたち何のお話してるの?」

私の隣の、1番小さな男の子が、おませさんに向かって首をかしげる。
またしても女の子はしれっと返した。

「近いうちに、このお姉さんが私たちと同じ苗字になるってことよ」


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残り、あと25枚。
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