秘密の恋
プルルルル…プルルルル…


静かな部屋に電話が鳴る音が響いた。
フロントからの電話だ。


彼は動こうとはしなかった。
私が受話器に手を伸ばす。


「……はい」


『延長されますか?』


彼は服を着始めていて帰る準備をしていた。


「…いえ。しません」


私は短く返事をする。


『では、あと15分でございます』


返事することなくフロントからの電話を切った。


「はい、ホテル代。」


彼に渡されたお金を受け取り
私は荷物を持って風呂場へ向かった。


鏡の前でメイクを直していると
パタンッとドアが閉まる音がした。


「ヤり逃げかよ(笑)」


端から見れば馬鹿げたことなのに、
私はすでに泥沼にハマっているから
彼に呼ばれたことが
彼と会えたことが
彼と一つになれたことが単に嬉しかった。


私はメイクを整えて部屋を後にした。


外に出ると彼はもういなかった。
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