ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
予想外の反応だったのか、彼女は驚いたように目を瞬かせていた。

「え?慧は、2年間、遠距離でも平気なの?」

彼女の手を握り、そっと微笑んだ。

「俺も、そこから一緒に通ってもいい?」

「通うって、幾らかか・・る。あっ、貴方まさか・・!?」

嫌な予感に震える美桜に意味ありげにほほ笑むと、固まった彼女が呆然と見つめ返す。

「もう一度、留学して症例数増やすよ。藤堂と天と地程の差をつけて圧勝するとか最高だな。
君を認めてくれた恩師の為にも、しっかり学んで優秀な研究者になろう。
毎朝の美味しい朝ごはんは任せてくれ。」

やりかねないこの男にゴクリと喉を鳴らした美桜は、冷や汗をかきながら逃げようと鞄を掴む。

僕は、その鞄に先に手を伸ばして、笑顔でガシッと鞄を掴んで持ち抱える。

「慧、返してよ・・。もう、離してってば!!」

「嫌だ、離さない。ニューヨークの同期の病院にコンタクトを取ってみるか。
・・・4ヵ月しかない、また忙しくなるな。」

「馬鹿じゃないの?女で人生決めるなんて。貴方程の男なら、いくらでも好き勝手出来るのに!」

「今までも、これからも君が僕の人生の全てなんだ。これでも君はまだ不安?」

呆れた表情の美桜も可愛い。

ポカンと開けた口を唇で塞いだ。

少し恥ずかしそうに、照れた美桜が殊勝な顔で呟いた。

「そんなの、違う不安でいっぱいです!!
でも、居なくなる不安は吹っ飛んだわ。
ずっと一緒にいてくれるんでしょう?」

「君が望んでくれる限りずっと一緒にいる。
1人ぼっちにしない。
だから、早く家に帰って調べよう。」

「えっ、何を調べるの?」

「離れないって決めた僕たちの、新しい新居に決まってる。」

悪戯っぽく笑う慧に苦く笑う美桜は肩を落とした。

彼女の鞄を掴んで走り出す。

驚きながらも微笑んだ美桜は、諦めたように腕を掴んだ。

駅前の道路でタクシーを掴まえて、彼女を無事に僕たちの家へと連れ帰る事に成功した。
< 105 / 127 >

この作品をシェア

pagetop