ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
私は、耳元で囁かれた声にゾクりと身体が震えて二条慧を睨む。
悪びれぬ顔で佇む彼に一言ハッキリと物申さなければならないのだ。
「有り難いお申し出ですが、丁重にお断りさせて頂きます。」
二条慧は、驚いた様子で見下ろしていた。
「何故?
日本に戻ったら見合いを用意されて無駄な時間を費やさねばならなくなる。
お互い、損はないだろ?
側にいれば君はきっと、俺を好きになる。」
当たり前のように、言い切って涼しげな笑顔を見せた。
はー!?
何その自信過剰な、俺様発言!?
「貴方なんて好きになりません!!
絶対ならないです。
私は貴方みたいな俺様の男は断固、お断りです。」
「なんだ、自分に言い聞かせている
みたいだな・・。
山科美桜、好きになるのが怖いのか?」
日本語が通じない。
アメリカにいたせいで日本語忘れたのかしら?
「私は自分の力で誰かを好きになって、見事に許嫁を解消してみせます!
お気持ちだけで充分!もうお腹も一杯です。」
「ふーん。だったら・・俺を好きにさせてやる。そして俺があっさり、君の婚約を解消してやる。」
なんで?
なにこの人・・!?
突き抜けている気がする!!
「あの、私じゃなくても良く有りませんか?
貴方程の容姿と、ステイタスがあれば選り取りみどりでしょう?
良いお相手と素敵な出逢いをお祈りします!!」
「へぇ、美的感覚は可笑しくないよな・・。
初めてなんだ、俺が興味を持った女なんて
今まで誰かを目に止めることなんてなかった。ただ、俺は興味があることを見つけたら一途なんだよ。医学もそうだ。
君も絶対逃がさない。」
こちらに、急に近づいてきた二条慧を呆気に取られた顔で見上げる。
トンと、バルコニーの手刷りに置いた手が握られ、一瞬驚きに怯んだ。
その瞬間に、わたしの前に影が出来て目の前にネクタイが映る。
整った顔が目の前に写しだされた。
大きく目を見開いた私の顎を掴んだ二条慧は
強引に私の唇を奪った。