ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
目を覚ました山科 聖人の目の前には白く高い天井が広がっていた。

驚いて周りを見回すと、見た事のない部屋が広がっていた。

自分の居室とは全く違う様子の白いモダンな部屋だった。

横を見ると、サイドテーブルの上に水差しが置いてあった。

反対側には大きな窓が広がり、見たこともない都会のビルの街並みに驚く。

「・・・ここは?」

耳には聞き覚えのあるピアノが聞こえてくる。

懐かしい音だった。

しかもそのピアノが奏でていたのは聖人が昔ハルにリクエストしたドビュッシーの「月の光」だった。

優しく心地よい音色に胸が震える。

「ハル・・。ここにハルがいるのか・・?」

起き上がろうとしたが、全身の力が入らない。

なんとかベッドから少し体を持ち上げて起き上がった。

手元に置いてあったブザーに気づいて鳴らそうとしたが床に取り落としてしまった。

カシャーンと大きな音が響き渡って慌てていた。

こちらに向かって誰かが駆けてくる音がする。

懐かしい足音、大好きだった美桜が姿を現した。

僕の言葉に僕と似た大きな瞳を揺らし、涙目で答えた。

「そうよ・・。ハルの「月の光」よ・・。」

現れた妹は、聖人に被さるように抱き着くと聖人は優しく頭を撫でた。

「・・美桜、君とハルが呼んでいた。
君は泣いていた「お願い、目を覚まして。」って優しくお願いしてた。
最後はハルに頭を叩かれて「いい加減、早く起きろ」って言われた。ハルらしい起こし方だったな・・。」

ピアノの音色はいつの間にか止んでいた。

「良かった・・・。目を覚ましてくれて嬉しい・・。
もう眠ったら嫌よ!二度と眠らないでねお兄様の馬鹿!!」

泣きながら抱き着いて騒ぐ私の後ろで、慧と海がその様子を見て微笑んでいた。

「美桜は、無茶苦茶言うな・・。僕はかなり長い事眠り続けたみたいだね。」

「おい、遅いんだよ聖人。8年半も寝るなんて・・。」

不機嫌そうに隣に姿を現した慧は兄を見つめる。
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