ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

果たされた約束。

3月の晴天に恵まれた朝、高層マンションのエントランスに一台の車が停車していた。

「美桜、仕度出来た?」

「うん。もう大丈夫!出れるよ。」

笑顔で大きなスーツケースを重そうに押しながら玄関に現れた美桜の姿を確認すると、そっとそれを引き受ける。

「守田先輩と秋元さんがエントランスに車付けてくれてるから急ごうか?」

母譲りの中性的な美しさを誇る聖人は、慌ただしい2人を見守っていた。

「元気でね、美桜。僕も元気になったらニューヨークに遊びに行くよ。」

笑顔で微笑んだ聖人に抱きついた美桜は、寂しそうに頷いた。

「お兄様、どうかお元気で・・。また、ちょくちょく戻ってきますから。」

「ハル、大切な妹を頼んだよ。
寂しくなるけど、僕も頑張るよ。
早く日常を取り戻して・・二条ホールディングス傘下になった会社の為に自分のやるべき事を成すよ。」

歩けるようになった聖人にマンションの玄関で別れをする。

「美桜、二条さん。行ってらっしゃい。お体には気を付けてね。」

ポロシャツ姿の母は、ほんの少し寂しそうだった。

以前のような艶やかさは失われたが、自然な笑顔と、人間らしく温かい表情が出てきて母に対しては好感を持てるようになっていた。

聖人のリハビリに同行予定の母とも、ここでお別れだった。

「ああ。その日を待ってるぞ、聖人。」

慧は、友人との爽やかな別れに目を細めて微笑む。

「またなハル!」

パシッと、手のひらが重なる。

向き合った二人の瞳は明るく輝いていた。

「行ってきます!!みんな、元気でね。」

二条の執事となった倉本が、慧のスーツケースを押してペコリとその場を辞した。

「美桜ちゃん、寂しくなるわね・・。色々あったけど、本当に2人はよく頑張ったね。」

乗り込んだ2人は、助手席に座る咲が既にボロ泣きだった事に驚いた。

「色々と、お2人にはお世話になりました。守田先輩、病院を宜しくお願いします。」

「二条が戻って楽出来ると思ったのになー・・。ますます有名になって戻って来いよ二条!!」

「言われなくても、更に大きくなって戻って来ますよ。
人間性に欠落が見られるって美桜にもよく言われるので・・。その辺も修行して来ますよ。」

その言葉に、寛貴は声を上げて笑っていると咲にど突かれていた。

「・・美桜ちゃんも、二条先生も濃厚な半年間だったわね。」

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