ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
週が明けた月曜、研究室で友人の理央に愚痴りながら学食でクリームソーダと、ラーメン大を平らげたのだった。

「明日の仕事・・行きたくなーい。でも、働かなきゃ暮らしていけないしな。」

「頑張れ!!でも、いいじゃない。玉の輿でしょう?ああ、でもあんたの許嫁も確か医者だっけ・・。」

そうなのだ。

何故、藤堂物産のご子息が医者なのかと問いたい・・。

藤堂 海と最後に会ったのは、私が高校3年の夏だった。

地元に帰って来たあの男が、医学部3回生となった夏。

地元の花火大会に私を誘ったのだった。

「あああっ。嫌な思い出を思い出した・・。もう、消えたい。」

「ん?どうした?あっ、高3の夏祭りのファーストキスでも思い出した?」

勘が良すぎる友人に私は驚きを隠せなかった。

「うん・・。もう、なんだろうね、あれといい、一昨日のあれといい。
私は医者が理解出来ない!!論文書いてとっとと博士号もらったら進路考えなきゃ!!
私は、一人で逞しく生きていくの。
医者の嫁なんて絶対嫌!」

「あんたさぁ・・。格好いいんだけど、贅沢なのよー。世の中の女子を敵に回すぞ!」

「理央は、藤村くんと博士終わったら結婚でしょう。長年の付き合いの果てに結婚なんて
一途で素敵だよ。」

「あのね、普通のサラリーマンだよ?
専門職でもお金持ちでもないじゃないの。でも、自分の好きな人と結婚出来るのは嬉しいけどさ・・。」

私は、目の前に少しだけ残るクリームソーダを見つめながら、弾ける泡に自分を重ねていた。

「それが一番だよ。お金があったって、ステイタスがあったって・・。
幸せになるなんて限らない。普通が一番難しくて、普通が一番幸せなんだよ。」

そんな私の言葉を理央は黙って、悲しそうな瞳で聞いていた。


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