ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
「あの・・この車目立つんですけど。」
大学院の前に着けられるような雰囲気じゃない、黒のポルシェで病院の前に現れた彼に驚く。
「嫌か?友達に買わされたんだ。
明日は親父のプリウスで来るからそれで送る。今日は我慢して。」
「いえ、あの。なんで毎日一緒に帰ることになってるんですか?」
「週に3回しか、会えないだろう?
土日も一緒にいたいんだけど今は論文で忙しそうだから我慢してる。」
運転している横顔は格好いいのだが、今の言葉は聞き捨てならない!
「私たち付き合ってないですよね?
何なんですか、その既にカレカノみたいな会瀬の回数!」
自然な流れで言われて、あっさりとスルーしてしまいそうだった。
でも、可笑しいのだ。
この男のペースに持ってかれると危険。
信号の赤で止まった瞬間に、二条慧は助手席の私を向く。
私は驚きながらも、彼を見つめる。
「好きだ。」
呆然とした表情で二条慧を見ていた。
「・・は?」
今の言葉が日本語なのかも分からない程の衝撃だった。
「ずっと・・初めて会った時から。」
整った顔で、大きな黒目がちの瞳を真剣に向ける。
「あの、ずっとって?
この間初めて会ったばかりじゃないですか。私、困るんです・・。
私、恋愛に免疫ないのに全力で来られるし。
貴方みたいな人に好かれると、それだけで注目されるし、出来るだけ目立ちたくないんです・・。」
「俺に好かれなくても、君は居るだけで目立つ部類の人間だ。君はその自覚がないんだな。」
「あの、聞いてますか?
とにかく困るんです。
私、貴方に翻弄されてる気がするの。」
信号が青になって車が動き出した。
「振り回されてるのはこっちだ・・。
いつも主導権は君にある。
君が何を言っても俺の気持ちは変わらない。
必ず、好きにさせてみせる。」
二条慧の言葉に驚いて目を見開いた。
色々聞きたいけど、聞いたら今のこの距離すら壊れてしまうような不安が車内には流れていた。