ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
さっきまでは少し恥ずかしくて下ばかり向いて歩いていた街を、二条慧と前を向いて顔を上げて歩く。
場違いな格好で現れた私に、気を使ってプレゼントしてくれたんだと気付いた。
「二条先生、お給料少しづつ貯めて返しますからね。
でも、素敵なお洋服と、可愛い靴で気持ちも上がりました。有難うございました。」
二条慧は嬉しそうに私を見下ろした。
「君の事だから、誕生日でも論文書いてそうだったからな。こちらこそ、強引に誘って悪かった。
でも、まだ昼過ぎだ。・・君の誕生日はあと半日残ってる、行くぞ。」
私の手を取って、走り出す。
驚いて二条慧の方を向いた私はブスッとした口と頬を少し染めた表情に更に驚いた。
「美桜、水族館と、映画館と、遊園地・・何処に行きたい?君が望む場所に連れていく。」
私はそれを見なかった事にして、空を見上げて笑った。
「そうですね・・。水族館に行きたいです!」
「よし、行くぞ。」
駅に向けて、人々が行きかう休日の街を急いで駆けていく。
1秒ごとに無くなっていく誕生日の残りの時間を惜しむように、二条慧は私の手を握り締めて走った。
駅の近くの信号機が赤く灯る。
私たちは、手を繋いだまま横断歩道で青を待った。
信号が青に灯り、大勢の人々が歩き出す。
「・・・美桜?」
たった今、横断歩道を横切りながら通り過ぎた男性に呼び止められ振り向く。
人波の真っただ中で、呼び止めた人物と目が合い瞳を大きく見開いた。
「美桜?・・どうした?」
いきなり、止まった私を振り返った二条慧は私を振り返りながら声をかける。
後ろに二条慧が立ち止まり、私の目の前には懐かしい人物が呆然とした表情で私を見下ろしていた。
「海・・くん?どうして・・。」
私の言葉に、二条慧は瞳を険しくして私の視線の先に立つ人物を見た。