ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
私たちは渡り切った場所で向き合った。
私の目の前には、幼い頃からその存在だけで私を縛りつけている男が立っていた。
「なんでこんな所にいるんだ・・。その格好・・。8年でこんなに変わるんだな・・。」
私を上から下まで眺めて、驚いた表情で見下ろしていた。
藤堂 海は、最後にあった医大の3回生の頃に比べ、落ち着いた雰囲気に拍車がかかっていた。
茶色に染めた髪に、きりっとした涼やかな瞳に眼鏡をかけていた。
ノリでピシッと襟が立ったブルーのシャツを身に着けて、白いズボンを穿いていた。
清潔で、育ちの良さそうな身なりの彼は本屋の紙袋を持って立っている。
「お前・・、今東京にいるんだってな・・。なんで実家に戻らない?
いつまで俺からも、家からも逃げているんだ。このままで良い訳ないだろう?」
体温が下がるような言葉に、体中が凍りつくように固くなっていく。
そんな時、私の手を温かい手がぎゅうっと掴む。
驚いて振り返ると、二条慧が私を見つめていた。
「今、美桜は俺とデート中なんだけど。こうしている間にも、彼女の誕生日が少しづつ終わっていくんだよ。
頼むから、邪魔しないでくれるかな?」
藤堂海は、怒りの表情で二条慧の前に歩み寄って強い視線を投げる。
「なんだよデートって・・。美桜は俺の許嫁なんだ。・・誰だアンタ?」
眼鏡の奥に微かな怒りを浮かべて、私と二条慧を交互に見ながら複雑そうな表情を浮かべていた。
「俺を知らないなんて、君、本当に医者なの?」
二条慧は、クスっと馬鹿にしたような顔で笑う。
「は?何なんだよ、お前は誰だ?」
「二条慧だ。・・あんたは藤堂 海だな。東央大附属病院の優秀な整形外科医と聞いている。」
眉を顰めて、ピクリと動かした海は二条慧をジロッと睨んだ。
「お前が・・二条慧か。雑誌に載ってたな。アメリカ帰りの天才外科医だっけ。・・なんでそんなお前が美桜といるんだ?」
「そんなの決まってるだろ。俺たちは付き合っているか・・」
「・・付き合ってません!!二条先生、話は盛らないで。」
私が、被せた言葉に驚いた2人はこちらを見た。
黙って聞いてれば好き勝手に話を進める男達に私は腹が立っていたのだった。