ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
嫌な沈黙が流れた。
物凄く不安になった私は、膝の上に置いてあった鞄を握りしめて退出しようとした。
「二条先生、今日は本当に有難うございました。こんな素敵な誕生日初めてで・・。嬉しかったです。」
私は助手席のレバーに手をかけた。
その瞬間だった。
「・・待って!!」
急にカチャリと鍵がロックされて、ガシッと腕を掴まれる。
目の前の出来事に焦りを感じて、慧を見ると真剣な表情で私を見下ろしていた。
大きな瞳が激しく揺れている。
「言ったよね。何があっても諦める気はないと・・。」
「あの・・。二条先生!!お願いです、離して下さい。」
私は、胸がドキドキ高鳴り煩い鼓動と掴まれた手の熱さに混乱していた。
「どんな化け物とでも、俺は戦う。君がそれで手に入るなら、俺はどんな相手とだって恐れず戦える。
君はもう、1人で怖がらなくていいんだ。」
私は、驚愕の表情で慧を見る。
「なんで・・。私は別に・・怖くなんかない・・。」
ポロリと零れた涙を見た慧は、ピクリと頬を動かしてシートベルトを外した。
そのまま、助手席に身を乗り出しがばっと大きな腕で私を抱きしめた。
「何するの!?止めてください!お願い・・離して!!」
大きな身体に抱きしめられて、男らしい香水の香りがして鼓動が高まる。
涙を流したまま、慧の肩を掴んで離そうとするのにビクともしなかった。
「大丈夫だ。君が不安に思う物は全部引き受ける。・・だから、もう自分の気持ちからも逃げるな。」
抱きしめられたまま、私は目を大きく見開いた。
「離して・・。もう、私には関わらないで・・。私は1人で生きていくの。」
「俺がそれは嫌なんだ。我儘なんでね・・。好きになったら一途だと言っただろ?」
少しだけ離れた身体に、少し安心した私は慧を見上げた。
微笑んだ慧に、不思議と懐かしい安心感を感じる。
優しい色の瞳を見つめていると、クスッと笑う慧が一気に距離を詰めて私の眼前で笑んだ。
「好きだよ、美桜。他の誰よりも、君だけを好きだ。軽い気持ちなんかじゃない・・。
だから、俺を選んで。」
上がりきった心拍数と、美しい顔が目と鼻の先に現れた私は、焦って離れようと腰を浮かせた。
その動きさえも先回りされて、シートに押し付けられて唇を奪われてしまった。