ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
シートに押し付けられたまま、頭を掴まれて固定された状態の私は反撃しようがなかった。
心臓がドキドキして、酸素さえも入ってこない口づけに身体が震えた。
「二条・・せんせいっ・。止めて!!」
慧は、切なそうに私を見つめていた。
私は驚愕の表情を浮かべて目で抗議する。
「このまま、全部奪ってもいい?我慢の限界なんだけど・・。」
「・・・だめです。何を言ってるかわからな・・。」
車の中に響き渡る、唇を吸い上げる音や艶のある声、荒い呼吸の音・・。
全てがどこか、客観的に耳に入って来て自分が何をされているのか分からない。
「お願い・・。止めて・・・。なんだ・・か・・体が可笑しいの・・。」
「へえ・・。どう可笑しいの?」
一度唇を離して、私の様子を上から眺めて挑戦的な目線を向けた慧にグッタリとした私は潤んだ瞳で見上げる。
「熱い・・の。体が熱くて・・変な感じ。お願い、もう勘弁して下さい。今日は・・もう・・。」
慧は、その言葉でハッとしたような表情で深くため息をつくと、私の肩を掴んで首筋に唇を当てて強く吸った。
「痛っ・・。何するんですか?
「ただのマーキング。
キツイけど我慢する・・。」
「何ですかマーキングって・・!?」
助手席のカギをカチャリと開け、ドアを開いた慧は苦い笑みを浮かべる。
「今なら、逃がしてあげる。でも、次は止まらないと思うから。」
「あの・・。だから、私貴方とは・・もうこんな風に会わないですって・・!!」
険しい顔で私の唇をキスで塞いだ慧に、何が起こったのか分からない私はパチクリと目を見開いた。
理解した瞬間に耳まで赤くなって慧をキツく睨んだ。
「藤堂を許嫁の座から引きずり下ろす。君は何の心配もしないで、俺に守られればいいよ。いざ戦いになったら、君もどうせ一緒に戦ってくれるんだろ?」
そう言うと、私をゆっくりと舗道に降ろして微笑んだ。
「また病院で・・。おやすみ。」
バタンとドアが閉められ、車は数秒で見えなくなる。
「どうして・・私を理解してるような事を言うの・・。」
私は動けないまま茫然と去っていった方向を見つめていた。